コービン・ラモント(The Changing Times Publisher)インタビュー

脱インターネット、脱ポートランド

まず、すでに言い尽くされているだろう、インターネットの功罪(生活に密着し過ぎていて、最早、完全にオワコンだよな、良いも悪いもないよな、という自覚だけはある。けれども、触れざるを得ないからしょうがない)について、大した根拠もないのだが、しかし、多くの人がそう感じているだろうことを、私見的に、サラっと触れてから話を進めていきたい。

第二次世界大戦が終わった後、しばらく経ってから基本的な考え方が築かれ始め、80年代の前後にコンピュータに実装され出したインターネットは当初、自由で特別だった(はず)だ。地球上のどこにでも行った気になれて、どこかにいる誰かと会話が出来て、何かを分け合ったり、互いに享受を得たり、はたまた素敵な恋を生み出したかもしれない。インターネットは、とても果てしなく、時間や居場所、空間という概念、束縛が不要な宇宙だった。しかし、息は短かった(と思う)。いつを機にとは決して断言できない上に、基本的な用いられ方は変わっていないと思われるが、悪用され、監視され、自由がなくなり、現在に陥っている。ユートピアを求める人が増え、密度が増し、膨れ上がれば、やがて居心地は悪くなる。また、想像して欲しい。ある実空間に人がすし詰めになり、スマートフォンを片手に「満員なう」とつぶやく状況を。助けを求めるために、言葉を放ったようだが、それはすぐに埋没する。未知の世界へと自分をコネクトするためのツールだったものが、今や、フォロワー(それもごく一部)という限られた、元々繋がっていた、安心な人、或いはその周辺までくらいしか届かなくなっているのだ(多少の語弊はあるだろうが……)。とまあ、インターネット上に記事を作っておいて、端から何、文句たれてんの? と思われるかもしれないが、別に否定をしているわけではなく、単純に今って行き詰っていることだけは確かだよね、と言いたいだけである。人間誰しも安寧を求め、依存する。ただ、そこもやがて脅かされるというのが、おそらく現代社会のルーティーンだ。「クソ、ここは最悪だ」とあなたが思うのなら、さっさとそこから出て行った方が良い。

BroccoliのDeputy Editor、エレン・フリーマンと共に来日し、同日に取材をしたグラフィックデザイナーとして生計を立てているコービン・ラモントは、その“さっさと出て行った”人のひとりである。エレンと同じく、まず彼女のバイオグラフィを紹介していく。生まれ育ったのはアメリカ大陸の西南、カリフォルニア州に位置しているコール・バレー。コービンはスキーを愛していた。それだけの理由のために、モンタナ(西部の1/3に山脈が走っており、スキーなどのアクティビティが盛ん)に移り住み、文章の書き方を学ぶ学校に入る。しかし、読書は好きだったそうだが、読解力のなさに気づき、挫折を味わったそうだ。

「それで、インターネットラジオを始めたんです。自分でしゃべって、自分で音楽をかけて、さらには、それ用のポスターもたくさん作りました。そのことがきっかけでデザインに興味をもつようになって。でも、独学でやっていたから、今度はポートランドに移ってグラフィックデザインをきちんと学ぼう、と。卒業してからは、広告代理店に入って、色々な企業のグラフィックを作りました。でも、綺麗な写真をたくさん撮り、それにコピーをつけて売る。それを何度もやっていくうちに、世界がゴミで満たされていくような気がしてきたの」

コービン曰く、当初はまだ単なる小さな町だったポートランドには、アーティストが多く住み、数千の住民のうち1/3がトレーラーの中で暮らしていた。その細々とした生活にコービンは惹かれていたと話すが、一方で移住者が増え、変わっていく町の姿を目の当たりにしていた。そして、結婚し、フリーランスとなり、ポートランドに自分のスタジオをかまえ、大企業との仕事も増えていくという、至極一般的な幸せをコービンはどんどん掴んでいく。傍目では順風満帆なように思えるかもしれないが、コービンのストレスは段々と溜まっていき、ポートランドを離れることを望むようになる。

「ポートランドの人口は当初の3倍にもなりました。私はポートランドに8年間居ましたが、最後の5年の間の開発はとにかく狂っていた。路上のチェアに腰を掛け、そんな町の変化について考えたものです。『The Changing Times』は、そういった問題意識から生まれました。ポートランドのような状況に陥ってしまった町は色々な場所にあります。誰が、どう、町を変えたのか、今、町に何が起きているのか。目的は何なのか。伝統的な町が生き残り、あるいは失われた原因は何なのか。それを探る必要があると思ったんです」

コービンはポートランドの家もパートナー、ボーイフレンドも捨て、実家の農場で愛犬と共にヴァン暮らしを始めた。そこを拠点に、アメリカ中を旅しながら“そこ”で起こっていることを1枚のペーパーやタブロイド紙にまとめるThe Changing Timesを刊行している。インディアンが排斥されアメリカ人が席巻・開拓し、土地を奪い取り、それから農業が発達したものの、世界恐慌、農業危機が起き不況に陥り、1980年代から製造やバイオ、金融業が介入し復旧、都市化が進められているアイオワ。ドナルド・トランプの大統領就任によってアメリカとの大きな隔たりが生まれた(トランプが中米を非難する理由は、エレンのインタビュー記事冒頭に大体書いてある)メキシコの都市、ティファナ。生態学に基づく持続可能な建築が砂漠に建つアリゾナ。何故、壊れ、何故、生き長らえるのか。それぞれの背景を自ら中長期間、滞在し、多くの人にインタビューをして回り、記事にする。それを四半期ごとに繰り返す。冒頭のインターネット依存とは真逆とも言える行為である。

「あなたは私たちすべてが繋がっていることを知っていますか? あなたが市内に住んでいるのか、田舎にいるのか、アメリカの中部に住んでいるのかどうかは関係ありません。私たちは皆、同じ問題を抱えています」

これはThe Changing Timesが掲げている声明である。コービンは現状を擁護しながら、一方で、その代償として多くの問題が見え辛くなっているのでは? という議題を提示しているように思える。次のユートピアがどこにあるのかは分からない。しかし、その疑問は留まるのではなく実際に動くことで解消される。コービンに持ち物を必要最低限にしてまで、今の活動をしている率直な気持ちについて聞いたところ「とても素朴ですが、満足していますし、刺激的です」という爽やかな答えが返ってきた。特定の場所に安寧を求める必要はない。どこかの路上にヒントは落ちているかもしれない。

: 大隅祐輔

編集補助: 渡辺凛

2018.7.12(木)


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